というわけで、僕の真夏の盛装はリネンのスーツ。本当は『ベニスに死す』のアッシェンバッハみたいに真っ白いヤツを着てみたいけれど、老後の楽しみにとっておくとして、今は主にベージュを選ぶことが多い。中でもお気に入りはフィレンツェのリベラーノ&リベラーノで仕立てたもの。「スペンスブライソン」製のアイリッシュリネンはシワになったときの表情が抜群によいし、軽やかな仕立てが、この季節にはぴったりだ。
そしてこちらと双璧をなすほどによく着ているのが、外苑前の〝変態御用達メンズショップ〟、ラクアアンドシーのもの。こちらはパターンオーダーなのだが、つくりが抜群によいのに値段は安価、しかもスタイルも個性的で僕好み。特にパンツのシルエットは、イタリアのテーラーでは絶対に表現できない絶妙な塩梅だ。生地のラインナップもツウ好みで、ほかにはないリネンスーツが仕立てられる。僕はツイード並みにヘヴィーなヘリンボーン織のアイリッシュリネンを選んでしまったので、正直いってリネンのメリットを感じないほどにメチャクチャ暑いのだが、頑張ってガシガシ着込んでいる。
真夏の海外旅行の際はこの2着を絶対に持っていくのだが、いわゆる古都と呼ばれる場所ならどこだって素晴らしくなじみ、現地の古老たちも大歓迎してくれる。しかし東京だとどうだろう。神保町の古書店街。銀座の並木通り。日本橋三越周辺。神楽坂の裏路地。浅草の観音裏・・・ってなくらいで、こんな装いが映える街はほぼ皆無だ。化繊混の機能ウエアのように、街がもつ「シワ」や「ニオイ」が、どんどん消滅しているのだろう。いつか、クラシックなリネンスーツが似合う街に住みたいと思う。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。