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夏の盛装リネンが似合わない街なんて!

盛夏の素材として、リネンに敵うものはない。そもそも、機能がすばらしい。涼しくて、すぐに乾くし、汗のニオイがつくこともない。いわゆる速乾の化繊素材と較べても、その優位性は際立っている。この間ジョギングの際にクール○ックス系のTシャツを着たところ、汗が乾いた後のイヤなニオイに我ながら閉口したのだけれど、リネンさえ着ていればそんな心配はないのだ。もちろん、見た目だって最高。1日の始まりのシャキッとした表情もいいけれど、着倒して散々汗をかいた夕方の、ドロッとした風情も捨て難い。日本のビジネスマンはみんな「消臭機能」とか「シワ防止加工」とか「吸湿速乾機能」とかが施された化繊混の服を着たがるけれど、どうしてリネンを着ないのかね? 不思議でならない。
というわけで、僕の真夏の盛装はリネンのスーツ。本当は『ベニスに死す』のアッシェンバッハみたいに真っ白いヤツを着てみたいけれど、老後の楽しみにとっておくとして、今は主にベージュを選ぶことが多い。中でもお気に入りはフィレンツェのリベラーノ&リベラーノで仕立てたもの。「スペンスブライソン」製のアイリッシュリネンはシワになったときの表情が抜群によいし、軽やかな仕立てが、この季節にはぴったりだ。
そしてこちらと双璧をなすほどによく着ているのが、外苑前の〝変態御用達メンズショップ〟、ラクアアンドシーのもの。こちらはパターンオーダーなのだが、つくりが抜群によいのに値段は安価、しかもスタイルも個性的で僕好み。特にパンツのシルエットは、イタリアのテーラーでは絶対に表現できない絶妙な塩梅だ。生地のラインナップもツウ好みで、ほかにはないリネンスーツが仕立てられる。僕はツイード並みにヘヴィーなヘリンボーン織のアイリッシュリネンを選んでしまったので、正直いってリネンのメリットを感じないほどにメチャクチャ暑いのだが、頑張ってガシガシ着込んでいる。
真夏の海外旅行の際はこの2着を絶対に持っていくのだが、いわゆる古都と呼ばれる場所ならどこだって素晴らしくなじみ、現地の古老たちも大歓迎してくれる。しかし東京だとどうだろう。神保町の古書店街。銀座の並木通り。日本橋三越周辺。神楽坂の裏路地。浅草の観音裏・・・ってなくらいで、こんな装いが映える街はほぼ皆無だ。化繊混の機能ウエアのように、街がもつ「シワ」や「ニオイ」が、どんどん消滅しているのだろう。いつか、クラシックなリネンスーツが似合う街に住みたいと思う。