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STORY

『ゴロッパ』と『オーロラシューズ』

シューズにおけるジャストフィットは、昔から諦めている。なぜなら僕の足は、左のほうが5ミリほど大きい。どうも左右のバランスが悪いなあ、と思いつつ今までだましだまし靴を選んできたのだが、最近はその不快感が顕著に。大好きなジョンロブのスリッポンを履いて歩いていると、左足がすぐに靴擦れを起こし、痛くて仕方ないのだ。これってもしかしたら……と思い調べてみたら、予感は的中。男でも外反母趾になるのね!!


そんなわけで最近は、ジョンロブに代表される本格派のドレスシューズはほぼ封印。オールデンのモディファイドラストやVASSのブダペストラストのありがたみをつくづく感じているのだが、そんな中でも最も活躍しているのが、本駒込にある登山靴店「ゴロー」の靴。といってもインドア派の僕が選んだのは、『ゴロッパ』と呼ばれるつっかけタイプの靴である。


コロンとしたシルエットが可愛いし、価格も2万円と安価。ご近所履きに便利かな?と思い購入を決意したのだが、なんと3000円をプラスするとサイズオーダーが可能で、左右違いのサイズ、しかも2.5㎜刻みでつくってもらえるという丁寧さ。職人さんの丁寧な採寸を経て約1ヶ月後、僕の『ゴロッパ』は完成した。

早速履いてみると、これが履き始めから驚くほど快適なのだった! つっかけ型なのにアッパーの返りがよく、歩いてもスポスポ抜けることはない。安定感があって、足がグキッとならない。そこそこの重みはあるけれど、ソールにビブラム社のガムライトを使っているから、クッション性が高くて軽やかに歩ける。履くほどにインソールが沈み込んで、足になじむ……と、もう完璧。おまけにドイツ製の上質な革を使っており、ワイド系のパンツだったら大抵合わせられるから、気がついたらこの靴ばかり履いている。ポール・ハーデンのスーツにだって合わせちゃうもんね!


この手の靴でいうとアメリカ製の『オーロラシューズ』が有名で、僕も長年履いているけれど、残念ながらウィズがやや狭かったり、芯を入れず一枚革でつくられているため、かかとがふにゃふにゃで抜けやすかったりと、正直言ってかなり足型を選ぶと思われる。なので巷のコンフォートシューズに納得できなかった方は、ぜひ一度『ゴロッパ』を試していただきたい。きっと損はしないはずだ。


あまりの履き心地のよさに、先日ついうっかり、『ゴロッパ』で高尾山に赴いてしまうという失態を犯してしまったのだが、あんなにかかとの浅い靴なのに、意外にも登り坂はなんの問題もなく歩けてしまった。下り坂は足がつんのめって踏ん張りがきかず地獄だったが……。言うまでもなく、「ゴロー」は登山靴の名門であり、『ゴロッパ』はその余技でつくられたご近所履き。上位にはクラシックなチロリアンシューズ、スニーカー型のウォーキングシューズ、超本格仕様のマウンテンブーツなど、たくさんの名品がある。そのあたりに足を通したことはないのだが、スリッパでこれほど快適だったのなら、その上はどれほど歩きやすいんだろう? パラブーツの『ミカエル』あたりと較べてしまうとちょっと野暮ったいけれど、次回はチロリアンシューズを狙っている。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。