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STORY

木を隠すなら森の中、カモね。

約30年間にわたり英国をはじめとする世界中の軍隊・特殊部隊へ、耐久性に優れた高品質な製品を提供してきたArktis(アークティス)社。英国軍の中でArktis製のミリタリーウェアは「グッチ・キット」と呼ばれているらしく、つまり下級兵士には配給されない高嶺の花、高級キットなのだそうだ。その経験と知識を継承させたレーベルArk Air (アークエアー)は全ての製品がMade in UKで、長年にわたる軍への供給経験から、ブランドポリシーである「quality of endurance(耐久性という品質)」に基づいて作られている。数年前から当店で取り扱っているArk Airのアイテムを僕もいくつか購入した。頑強なT/C素材、ステッチ、ポケットの位置や角度、スレキの深さまで(当たり前だけど)緻密に計算されていて非常に使いやすいのだ。
「木を隠すなら森の中」なんて言葉がある。
カモフラージュ柄のアイテムって、森や砂漠や雪原に潜むためのものなので、グレー色の都会で着るには少々目立ち過ぎてしまう。しかも、僕が持っているArk Airのアイテムはクレイジーパターンのカモ柄、1着の中で迷彩柄の博覧会を絶賛開催中。目立って仕方がない。とりあえず、Air Airのカモフラージュパンツをカモフラージュさせるために着こなしだけはトップスと色の調子を合わせてみる。
リネンのジャケットをはじめ、ダックカモのスモーキーなトーンに合わせた実例。サンダルもグルカを選んでみた。

グリーン×ブラウンのデジタルカモに合わせてジャケットやブーツでブラウンをチョイス。上着のメタルボタンもちょっとしたミリタリー?

うっかり朝寝坊したときなどはカモフラージュをカモフラージュするためにカモフラージュのジャケットをとっさに羽織ってきてしまった実例。クレイジーパターンを隠すには、さらに柄を増やしてみるという逆転負けの発想。

ちなみにこの「クレイジーパターン」の手法は日本でも昔からセレクトショップを中心によく見かけたものだ。袖、襟、身頃、左右で配色やピッチが違うキャンディストライプのB.Dや、ヘリンボーン、チェック、ストライプを組み合わせたツイードジャケットなど。SHIPSやBEAMSをはじめ、The Stylist JapanやHis Tube、ネペンテスなどアメリカの影響を強く受けたショップやブランドのイメージが強い。このスタイルの起源に、米国のマサチューセッツ州ケープ・コッドの南に位置するナンタケット島がある。普段は都会でエリートな顔をしている高級プレップな人々が別荘のあるこの島をバカンスで訪れ、夜な夜なパーティーを開く際に普段はあり得ないくらいのド派手な出で立ちで集まるというのだ。圧倒的なエスタブリッシュメントだけに許される社交界の「お遊び」といったところ。このド派手な衣装全般を隠語で「Go to hell(地獄に落ちろ)」と呼ぶらしい。で、この「Go to hell」の代表的なブランドが当店でも10年以上前に取り扱っていたWinston TailorとLily Pulitzer。それぞれがJ.F ケネディとジャクリーンのお抱えだった仕立屋とドレスメーカーである。1950年代アメリカでクレイジーパターンのスーツを着た男性が目の覚めるようなグリーン色をした大柄ペイズリーのドレスを着た女性をエスコートする絵面は都会では決して見られまい。普段は真面目な顔をした大金持ちだけで島に集まり、同類だけで狂乱の夜を過ごしたのだろうか?そんなことを想いながら池袋の居酒屋カウンターでチューハイをあおる全身迷彩柄の僕には「えーせーへー!」た叫んだところで孤立無援。ちっとも森の中に隠れることができないので、仕方なくクリエーション強めの服と曲者スタッフ揃いのインターナショナルギャラリー ビームスに毎朝出勤して、身を潜めているのだ。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。