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STORY

僕らが靴を履く理由/春にしてカカトを想う

最近、トンガリ靴にハマっている。というのはここで数回にわたって書いてきた。主役は二色買いしたフランス靴、Simon Fournierのブーツ。数ヵ月の間、なかば意地になって5cm強も高さのあるハイヒール靴を履いて毎日仕事に出かけていた。やっぱりヒール靴の方が(これまた最近ハマっている)膝下フレア気味のパンツをより綺麗に見せてくれるのだ。…が、たまに足が疲れてむくんでいるいる時などは激痛とともにこのブーツに足入れする日もあった。そう、ハイヒール靴は痛いのだ。爪先にかけてかなりナローに削られた木型、その細くなった爪先へ足を押し込もうとするハイヒール故の前傾斜。ただでさえ僕の足は幅広甲高。合う人は合うらしいが、僕にとってSimon Fournierのブーツはその日の体調によって、できれば履きたくないほど痛い靴になっていた。いやいや、そんな日は違う靴を履けばいいじゃん?履き慣れたParabootとかGuidiとかモディファイドラストとか。ぼってりしてやらかいヤツ。いや、そうはいかんのだ。いまの気分はトンガリトゥ&ハイヒールなのに、その気持ちに嘘をついて不細工靴を履いて出かけるわけには、いかんのだ。断固として。服屋として。いや、知らんけど。スニーカーで出社し、ハイヒール靴に履き替える女性販売員の気持ちが少しだけ分かったような気がした。

最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた。とは'66年バッファロー生まれのビリー・ブラウンが放った名セリフ(キャッチコピー)だったか。彼女の名はOUR LEGACY。スウェーデン発のファッションブランドで、僕がいる店ではデビュー当時から12~3年もの間取り扱っている。センターにブラックジャックみたいな縫い合わせがあるちょっと野性的なトンガリ靴を一目見て、彼女ならなんとかしてくれるかも、と僕はときめいた。爪先はポインテッド、ヒール高は4.5cm。Simon Fournierには及ばないが、メンズ靴としては十分ハイなヒール。アッパーは牛の揉み革。見るからに柔らかそうだ。ソールにはビブラムが貼ってある。そして、何より特徴的なのはカカトのないミュールタイプだということ。「サボ」みたいに、爪先をつっかけて履くタイプ。これは楽、かも。

その時彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした。とは失恋後にパイナップル缶を食べ続けるナイーブな香港刑事のセリフだったか。購入後、数回履くうちに期待は確信へと変わった。いや、楽だわ、この靴。もはやスーツコーディネートの時も、この靴を履いている。ヒールはピッチド(先細り)なので、意外とスッキリ収まるのだ。デカいバックパックとビーズネックレスの合わせ技でアーバンストレンジャースタイルに。

OUR LEGACYの登場で、逆に存在感を取り戻したSimon Fournierのブーツ。もはや恐れることはない。心身ともに充実した日はトンガリブーツを、疲れた日はトンガリミュールを、交互に履くことにしている。ツンとお澄まししたインテリなフランス女と、ブロンドでどっしりとした気立ての良いスウェーデン女の間を行ったり来たりしながら、この春はハイヒールライフを楽しんでいる。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。