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STORY

アンバランスド・ラブ

妻の実家が町田にある。爺婆に子供たちを預けに行くことがあると、帰り道に町田駅前で古着屋を数軒覗いたりする。この日も一軒の店で50'sTowncraftのオープンカラーシャツに好みの柄があったので、まずそれを試着無しでレジに預けた。他をパラパラと見ていたら、とても着丈が短いフィッシング用と思わしきジャケットを発見。タグを見たら果たしてDrybak社(ハンティング/フィッシングアイテム及び米軍への供給でも知られるブランド、60年代後半に消滅)のもので、アシンメトリーなマルチポケットと激ショートな着丈を気に入り、こちらは試着後に購入した。

Drybakのフィッシングジャケット。袖が長いのではなく、着丈が短い。

ここ2~3年、ハイファッションでも「激ショート丈」なトップスがチョイチョイ出てきており、デザイナーズブランドではもはや乳首下(?)のバランスすらも、まれに。一方で、ユーティリティとしてのショート丈には勿論意味があり、例えばフィッシングアイテムだと胸元まである防水サロペットを履いて川に浸かるから、上着は短い。BarbourのSpeyなんかが代表的なところだ。つまりボンタンと短ランの関係も然り、ボトムの股上が深いから、トップスが短いのだ。だとすれば、どういうことかというと…。


実際に釣りに行くわけではないので、ショート丈のトップスにローライズのパンツを合わせてヘソを出して着こなすのがファッション的な正解ということになる。いや、なんでだよ。ならねーよ(笑)。

そもそも、妻の実家は親も酒飲み。この親にしてこの娘あり、という感じだから町田を訪ねるときは相当の酒量を覚悟して行くことになる。正月などは目の前に3種類のグラスが並べられ、それぞれは「ビール」「ワイン」「日本酒」で満たされており、どのグラスを空にしてもその都度、中身を注がれるという「わんこそばmeetsチャンポン」な飲み方になるので、それを5時間ほど繰り返したあと町田駅前に着くころには、そこそこの出来上がり。だから、「ここはいっちょ、ヘソでも出しますか!」という妙な了見になってしまうのも仕方がないのだ。

元々僕は服を買うのにそれほど慎重なタイプではない。着こなしは買ってから考える。予定調和が嫌いなので、勢いで買った変な服を自分で後始末するために自然と身に付いたのが「アンバランスを楽しむ」という超絶前向きな思考。言い直すならば「ぁぁ、なんかちょっと変なバランスになっちゃったけどあんまり見たことないし面白いから、ぃんじゃね?」という大雑把さでもある。そう簡単には正しさの奴隷になりたくない。
Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。