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STORY

出会いのソックス

「鶴田さん」「はい?」「電話です」「誰から?」「前淵さんからです」「!?」
後輩が取り次いできた一本の電話。その日、いつものように店番をしていた僕は相手の名前を聞いて、一瞬ひるんだ。何故って「前淵さん」とは業界歴30年超の重鎮であり(しかもコワモテ)、弊社で仕入れているブランド rdv o globe のオーナー兼デザイナーだからだ。一体、僕に何の用…?

遡ること6年。前任バイヤーのSに連れられて渋谷区東にある一軒のショップにお邪魔した。有名セレクトショップのバイヤー、ディレクターとしてその辣腕を振るってきた前淵俊介氏が立ち上げたショップ rdv o globe だ。入口には笑顔で出迎えてくれた初対面の前淵氏。美味しい料理もいただけるこの店で前淵氏を囲んで食事会が始まり和やかな時間が流れた。ワインの杯を重ねるうち、ほろ酔いになった氏が突然僕に「あのさぁ」「はい?」「ソックスの色」「はい」僕の足元をチラと見ながら「男のソックスなんて黒かグレーがあれば十分なんだよ。洋服屋はちょっとダサいくらいじゃないとダメなんだよね~」ゆっくりとした話し方の中にも確かに強いポリシーを感じた僕は「あぁ…たしかにそうですねぇ」とその場を濁した。その日の僕は CARVEN のカーキ色のコットンスーツに茶色い Paraboot の U-tip、肝心のソックスは某ファッションブランドのもので、かなりヴィヴィッドな発色の「パープル」。なかなか見かけない色で個人的には凄く気に入っていたのだが…。

その帰り道「いやぁ、パープルのソックス、ダメっすかねぇ…」「前淵さんは硬派だからねぇ」などとバイヤーSに話しながら「でも、僕…ますます履きたくなっちゃいました、パープル!」シュンとしてるくせにやたらと意固地になる部下を前に苦笑いのSは「いいぞ!その調子だぞ、鶴田!パンクだ!」などと適当に話を合わせてくれた。
で、その後ますます精力的に(?)紫色のソックスを履き続けた結果、数ヶ月後には立派な穴があき処分することに。数年後の2016年。その靴下のことなんてすっかり忘れていた僕に、オリジナルのソックスを企画するチャンスが巡ってきた。ドレッシーなコットンリブソックスをディレクターに提案した結果「色、決めていいよ」とのこと。使える生地スワッチを見てみたら、見覚えのある色が。あっ、この色!そっくりだ!前淵氏のことを一寸思い出しながらも、はい即決、パープル。


これは前淵氏の教えを軽んじているわけでは断じてなく「数年後に見てもやっぱり好きな色だった」という自分の性(さが)に従うことにした結果なのだ。全部で6色、ヴィヴィッドカラーを中心に揃えたこのソックス。勿論、入荷した日にパープルを即購入する僕。そしてなんと!数ヶ月経った頃には6色ある中でもダントツの人気商品となったパープルはすっかり品薄になり、この1色だけ追加生産をすることになったのである。
その日、前淵氏からかかってきた電話は「Amvai で書いてみない?」という勧誘で、これはいまだにパープルのソックスを履き続けている僕を「思ったより骨のあるやつだな」と認めてくれたわけでも何でもなく、そんな些細なことをいちいち覚えていなかっだけだろう。

今では色展開も増えました。

この靴下、日本を代表するソックスメーカー、グレンクライド様によるもので爪先はハンドリンキング処理、最高級エジプト綿のガス•シルケット加工糸(65/2)を使用しつつ裏糸を細くすることで、糸そのもののシャリ感、光沢感を活かした抜群の発色を誇ります。是非ともお試しくださいませ。ただし rdv o globe を訪ねる際は履いていかないようにご注意を(笑)。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。