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2020春夏をさきどりカインド オブ グレー

グレー色が好きだ。白黒はっきりしないという点が良い。白と黒の間は無限にグレーだからトーンの変化で印象が変わる曖昧さも良い。業務的なことは白黒はっきり、オールオアナッシング「やるならやる/やらないならやらない」な方が性に合っているのだが、こと感覚的な領域になると「それもアリだよね」とグレーゾーンや余白をできるだけ広く取りたい派だ。この冬用に新型のコートを企画することになり、僕が選んだ生地も「グレー」。厳密には白×黒のハリスツイードだが、遠目にはグレーに見える。リングヂャケット製のチェスターフィールドコートはフライフロント(比翼仕立て)、スクエアなショルダー、長めの着丈(size46で115cm)とまぁまぁ正統な型だが、素材がざっくりとしたハリスツイードになることで「フォーマル」という文脈から大きく逸脱する。「ドレッシー」の代表格であるチェスターフィールドコートに「スポーティー」の代表格であるツイードを乗せたイメージ。つまり、どのようにも(純然たるフォーマル以外は)着こなせるのだ。そもそも日本人にはグレーが向いている。水墨画のような日本文化には、曖昧さやニュアンスなど、グレーゾーンが多分に含まれている。そうそう、このチェスターコート、前合わせをシングルとダブルの中間的な位置(深めのシングル)に設定してみた。つまり1 1/2(ワンアンドハーフ)な感じ。カバートコートなどクラシックなオーバーコートにも見られるアシンメトリーな意匠だが、狙いは防風よりもむしろ「(打ち合わせが深い分だけ)フロントボタンを閉じるとぴったり、開けるとたっぷり」にシルエットの変化を楽しめるという点にある。この「1/2」に余白があるのだ。そういえば、フェリーニの代表作『8 1/2』の冒頭とエンディングのシーンにはヘリのプロペラ音や波寄せる海岸の音声が入っていて、つまり人物の台詞がはっきりとは聞き取れない。この聞き取れなかった部分にこそファッションがあり、数学の方程式みたいに「白黒はっきりと」分類できるようになった時点で、ファッションは本格的に息の根を止められるのだ。チェスターフィールドコートをグレー色のBirkenstockでリラクシングに着崩してみたこの冬。Bella Freudのインターシャニットにフランネルパンツ(1970's YSL、フランス製)を合わせて、クラシックともモダーンとも判別がつかない全身グレーのコーディネート。Corgiのモヘアソックスで差し込んだピンクはご愛敬。このグレーという色、英国的階級色の強いネイビーよりも革命を経て市民権を勝ち取ったパリ的な匂いがする。つまり、権威に媚びない自由の匂い。多分、この春も僕はグレー色の洋服を着る。インソールまでグレーで統一したスエードのBirkenstock「Zürich」やLIWLEのコードベルトが冬のうちからスタンバイ中である。