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チープだけど(だから)好き観念的ビーズネックレス

「ビート文学にあるカットアップ、最終的にはあんな手法で洋服着られたらいいなと、思ってるんだよね~」なんて、後輩に嘯いてみたところで、共感・理解を得られたためしが、当然だが一度もない。

僕が何を言っているのかというと「トップス」「ボトムス」「シューズ」と書いてあるくじ引きの箱みたいなものから、それぞれ一枚ずつの札を引き、問答無用でそれらをコーディネートして出かける、ということ。場合によっては「ツイードのスポーツコート」に「スイムショーツ」を穿き「オペラパンプス」に足を入れて「じゃ、お父さん行ってくるね!」と家族に手を振りながら玄関を出る、たとえ寒風吹きすさぶ2月でも、ということ。つまり、闇鍋。理解なんか得られなくて当然だが、意外と真面目にそう思っている自分がいる。

「自分で選ばない、偶然にまかせる」と、ここがポイントになってくる。いや、洋服屋が言うのもアレだけど、メンズのコーディネートっていちいちうるさいなぁ、と普段から思っていて「洋服のルーツ」や「国」「年代」「テースト」など既成概念に縛られ過ぎだろと自らツッコミをいれたくなる幾千の夜を越えて、たどり着いたのが「闇鍋コーディネート」という偶然性で常識をぶっ飛ばす手法である。ではあるのだが、結局、箱を作るのもタンスを覗きながら札に書き出していく作業もめんどくさくて吐きそうになるので、有言不実のまま時は流れて、はや四十路。

先日、青山の某セレクトショップを覗いたら2Fのウイメンズコーナーのラックに一枚の袖無しブラウスがかかっていた。その首からジャラっとビーズネックレスがディスプレイしてある。吸い寄せられるようにそのビーズを手に取る僕。「LAで買い付けてきたみたいです」と若い女性の店員さんが声をかけてくれた。「一本おいくらですか?」「3,000円です」「じゃあ、全部ください」とまとめて買った。数えてみたら5本あったので15,000円也。ちなみに僕はビーズ文化にまったく造詣が深くない。一本3,000円だから、もちろん7層シェブロン玉に比べたら抜群にチープなものにあたるだろう。自分が価値が判らないものに大枚をはたくほど愚かな人間ではないので、一本3,000円が僕には妥当だと思う。雰囲気よかったし。なにより「女性服のコーナーで」「偶然」「5本まとめて」「陳列されていた」「のを」「たまたま見つけたオジサン」という点に注目すれば、この「闇鍋感」に乗っからない手はない。一本15,000円の五連ネックレスを買ったことにして、「他人が決めたこの5本の組」を決してバラして使わないと瞬間的かつ観念的に決意していた。

コーディネートも闇雲。理屈を越えて、何にでもジャラ付けしている。写真のコーディネートはビスポークのブレザーに T&A のマルチストライプシャツ、 Hermès のプリントタイ、 MATSUDA の眼鏡。ほら、単品で見ると世界の高級品ばかり。ここに五連のチープなビーズネックレスを意味なくジャラっと。なんか、セオリー的「合う」「合わない」を越えてきた感じがする。いいぞ、その調子だ、俺。なんて、ふとネクタイの柄に視線を落としたら、ネイティブなトライバルプリント柄…。既成概念、ぶっ飛ばせず。ちょっと合わせちゃってる。無意識下の意識。洋服屋の性(さが)or 手ぐせ。やっぱくじ引き、作ろかな…。