10年ほど前に六本木の FUJIFILM SQUARE に「うえだ好き─ 写真家・植田正治に捧げるオマージュ展」と題された展示を観に行ったときのこと。当時、僕は植田正治の写真にハマっていて、砂丘や植田正治写真美術館を見たくて鳥取まで出かけたりしていた。初日だったせいか、会場ではそうそうたる顔ぶれの著名人・関係者たちが植田先生との想い出や昔話に花を咲かせている。菊池武夫氏や佐野史郎氏の顔も見えた。関係者でも何でもない僕はおとなしく展示された写真・作品を観賞しながら会場をぐるりと回っていたが、ふと見覚えのある写真群の前で立ち止まった。80年代半ばに撮られた BRUTUS のファッションページ写真だ。その中に、白いストローハットがふわりと青空を舞っている一枚があった。写真の横に添えられたキャプションを見ると、どこだかの田舎町で廃校になってしまった学校の屋上で撮影したものらしい。テキストを寄せていたのはこの撮影を担当したスタイリストの北村勝彦氏だった。
それによると、屋上に衣服などのオブジェクトを配置したあと植田先生が「風で帽子が飛ばされたところを撮りたい」と言うので、北村氏をはじめとするスタッフは皆「風待ち」の状態で待機。しかし、待てど暮らせど帽子が飛ばされるような風は吹いてこない。ジリジリとした時間が続くなか、気づいたら北村氏は無意識のうちに配置された帽子を手に取り、宙にほうり投げていた。それを見た植田先生は北村氏に言ったという。「君ね、そういうことはシャシンに写るんだよ」
そう言われた北村氏は恥ずかしくなり、再び風を待ったそうだ。10年前の展示なので記憶にやや曖昧な部分があるものの、このエピソードを読んだ僕はとても感激して、今の時代にはない「ある意味での大人っぽさ」に浸っていた。と、次の瞬間、僕は背中をドーンと叩かれた。驚いて振り向くとそこには笑う北村勝彦氏。「見にきてくれたんだ~、ハッハッハ」「あっ…北村さん、いらしてたんですね…」僕はドギマギと汗をかきながら挨拶をしたものだ。
青空に舞い上がる帽子のカットで一生忘れられないものがもうひとつある。それは小学生時代に読んだドカベンの最終回。「里中おんどりゃやっぱし…小さな巨人やったで!」と言いながら岩鬼は風呂でも脱がなかった自分の学帽を放り投げる。野球を辞めていく里中への餞別だ。「あばよォー、またなーーーぁあ」岩鬼のセリフとともに空高く舞う、ズタボロの学帽。この最後のひとコマがあまりにも完璧過ぎて、僕はいまだに続編の「大甲子園」や「プロ野球編」を読んでみようと思えないままでいる。紺碧の青空と宙に舞う帽子。ロマンにかられて、なんだかとりとめのない話になってしまった。ともかく、件の写真が収められた1985年春夏のスタイルブック号 BRUTUS は一見の価値あり。神保町の magnif なら売っている…かも(笑)???
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