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仕事がはかどる喫茶店純喫茶『BLACK HAWK DOWN』

だいぶ前に煙草をやめたボクとしては喫茶店に入る理由付けがイマイチ乏しい。山下英介さんマグニフ中武さんらのコアな街・神保町には個性派の純喫茶が目白押しだとは思うが、我がホームグラウンドの恵比寿・代官山はカフェ・カルチャーに淘汰されて喫茶店と呼べる物件は皆無に等しい。赤いキャップのあじ塩とともに提供されるミックスサンドイッチや、ケチャップ度のやたらと高いナポリタン等、味な定食喫茶なんて代官山では過ぎ去りし日の記憶・・・。気付けば、スタバかその類似サードウェーブ系に何となく入ってさっさとカフェインを摂取するのがボクの悲しいお茶事情の現実なのである。
しかーし、喫茶店の利用法を、仮に現代人の補給・通信・装備・装填の場だとします。するとボクの脳裏にはそんなタグ達に合致する映画での名シーンが蘇ってくるのです。それはリドリースコットの2001年監督作品でソマリア紛争を描いた『 BLACK HAWK DOWN 』のラストシーン・・・。主人公の若い兵士が地獄の様な市街戦をくぐり抜けようやく仲間のいるベース基地まで命からがら戻ってくる。観ている側も無事の生還に安堵の溜息をつく。基地内に収容された仲間米兵の亡がらを見るにつけ、生かされた自分を神に感謝する主人公。しかし彼は思いもかけない光景を目の当たりにする。血まみれの顔のままで飯を喰い、体中に武器弾薬を装填するデルタフォースのフート軍曹だ。彼もようやく市街戦を生きて帰った兵士なのだが、『仲間がまだ地獄にいる。』この1言を残して再出撃するのだ。トライアスロンのゴール直後に今来た道を引き返してもう1周するようなこの行為、この一言こそが、120分間、ほぼ戦闘シーンしかない映画の主題に通じる重要なカットなのだ。目的の為に今補給すべき物を的確に、冷静に装備するフート軍曹。この状況下で食物が喉を通る事に驚く。
実は青山に同じ様な戦士で溢れる喫茶店をボクは知っている。それは宮益坂を登り切る手前のコメダ珈琲店。ここの店舗には1座席1コンセントがデフォルトで用意され、無料Wi-Fi、おしぼり、高カロリーフードメニューの数々そして当然、飲み物。全ての椅子はコルビジェやミースの様な造形美とは無縁の、実家にありがちな座面の大きい、悔しいけど座り易いタイプのソファー&昭和仕様な低めのテーブル。入稿を控え超テンパっているライターの方、クライアントのメールを片っ端から処理する外資系女子などなど・・・。ここを当てにして集う客の頭からは湯気が出ているようで、なにやら店内には不思議な一体感が生まれている。これぞ正に戦士の休息。シアトル風なんちゃってカフェでノートパソコンひろげてアンニュイオーラをまきちらす輩は、絶対ここではくつろげない。洒落っ気のベクトルが高度成長期の日本へと逆流する、コメダの中でもデルタフォース向けの補給喫茶なのだ。店内特殊仕様につき、お値段はちょい高めナリ。